開発チームで使っている生成AI(Claude)を、非エンジニアの部門にも広げようとしている。結論から書くと、ツールを使える状態にして案内するだけでは広がらなかった。いまは順番を入れ替えて、業務ごとの「使いどころ」を先に設計するところからやり直している。
成功事例ではなく、途中経過の記録だ。詰まった理由の整理と、使いどころを書き出すときの考え方をまとめておく。
背景:開発チームの外に届いていない
日常的にAIを業務で使っているのは、開発チームと、その外のごく一部に限られている。ほかの部門にはほとんど届いていない。
ツールを用意して「使えますよ」と伝えることはできる。自分は最初、便利なツールがあれば自然に使われ始めると考えていた。実際にはそれだけでは動かなかった。
開発チーム内での導入の経緯と利用指針(入力してはいけない情報など)はClaude Codeを実務導入して開発フローが変わった話に書いたので、ここでは扱わない。この記事は、開発チームの外へ広げる段階の話だ。
詰まった理由
理由を整理すると、3つに分けられた。
1. 何から始めればいいかが分からない
これが一番大きい。AIが便利らしいことは何となく知られている。ただ「自分の業務のどこに、どう使えばいいのか」が見えていない。
「AIを使ってください」という案内は、「英語を話してください」と同じくらい漠然としている。入口が分からないものは使われない。
2. 組織としてのゴールが言葉になっていない
個人の作業でAIを使うことと、組織としてどの業務にどう使うかを決めることは別の話だ。後者がまだ言葉になっていない。これは広げようとしている自分の側の宿題でもある。
一般に、ゴールがないまま道具だけが先に手に入ると、出力を作ること自体が目的になりやすい。作れるものが増えても、それが業務のどこを楽にしたのかを説明できない状態になる。
3. 方針と優先順位が決まっていない
全社で使うには、予算・方針・優先順位が要る。どの業務から着手するかが決まっていない段階では、現場で個別に勧めても部分的な利用で止まる。これも、使いどころを具体的に示せていないことの裏返しだと考えている。
共通していること
3つに共通しているのは、「何のために、どこで使うのか」が設計されていないことだ。
入口が分からなければ使われない。目的がないまま使えば、出力が増えるだけになる。どちらも、使いどころの設計がないことから出てくる。
やり直し:使いどころを先に設計する
そこで、ツールを配ることより先に、使いどころを設計することにした。非エンジニアの業務の中で「この作業はAIでこう楽になる」という具体的なユースケースを、ひとつずつ言葉にしていく。
候補として挙げているのは次のような作業だ。
- 議事録
- 報告書の下書き
- データの整理
- メールの叩き台
議事録でのAI利用についてはAIノートテイカーで議事録が変わったに書いている。
効く作業と効かない作業を分ける
使いどころを書き出すときは、作業を2種類に分けて考えている。自分が開発業務で使い続けてきた中での整理であり、まだ確定したものではない。
| 区分 | 作業の例 | 理由 |
|---|---|---|
| AIが効く | 下書き・叩き台の作成、断片的な情報の整理、文章の構成 | 背景情報を渡せば叩き台が速く出る。断片的な知識を一本の流れに並べ直すのが得意 |
| AIに任せない | 事実の確認、最終的な判断 | もっともらしい誤りが自信のある文体で出てくる。前提から外れると的外れな回答になる |
右側の「理由」は、自分が実際に踏んだ落とし穴から来ている。誤った情報がそれらしく出てきたこと、渡した文脈から外れた質問をして的外れな回答を受け取ったこと、判断を委ねすぎて後悔したこと。便利さを伝えるだけでなく、この限界を一緒に伝えないと、使いどころの線が引けない。
もうひとつ前提にしているのは、AIの出力は使う側の理解の解像度を超えない、ということだ。業務を分かっている人が背景を渡して初めて、使える叩き台になる。だからユースケースは、その業務を担当している人の言葉で書く必要がある。
ユースケースの書き方
「AIを使おう」ではなく「あなたのこの作業が、これで減る」と示すために、ユースケースは次の項目で書き出そうとしている。
作業名 :(例)会議後の報告書の下書き
いまの手順 :誰が、何を見て、どのくらいの手間で作っているか
AIに頼む部分 :下書き・整理など「効く作業」に当たるところ
渡す背景情報 :目的、読み手、元になるメモ
人が確認する点:事実関係、数字、最終的な判断
入力しない情報:利用指針で禁止しているもの
「人が確認する点」と「入力しない情報」を必ず書く欄にしているのは、効く作業と任せない作業の線を、ユースケースごとに明示するためだ。
教え方
教えるときの方針は、いまのところ次の3点だ。
- 機能の説明からではなく、相手の具体的な作業ひとつから始める
- うまくいく例と一緒に、誤りが出る例・的外れになる例も見せる
- 出力をそのまま使わず、どこを自分で確認するかまでを一連の手順として伝える
うまくいっていない点
この設計はまだ途中だ。ユースケースを整理している最中で、他部門への展開が進んだとは言えない。上の表やテンプレートも、非エンジニアの業務で検証できたものではない。
ゴールの言語化も残っている。個別のユースケースを積み上げた先で、組織としてどこまでをAIに任せるのかを言葉にする必要があるが、そこまでは届いていない。
まとめ
- ツールを使える状態にして案内するだけでは、開発チームの外には広がらなかった
- 詰まった理由は「入口が分からない」「ゴールが言葉になっていない」「方針と優先順位が決まっていない」の3つで、共通点は使いどころが設計されていないこと
- 順番を「ツールを配る → 使いどころを設計する」に入れ替えた。作業単位で、AIに頼む部分と人が確認する部分を分けて書き出している
- 便利さと一緒に限界(誤り、的外れな回答、判断の委ねすぎ)を伝える
- 展開は現在進行形で、検証はこれから
広がらずに止まったことで、広がらない理由を考えることになった。順番を間違えていたと分かったのは、その結果だ。
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